News & Contents
- 2024-11(1)
- 2024-10(2)
- 2024-08(3)
- 2024-06(2)
- 2024-04(1)
- 2024-03(2)
- 2024-02(1)
- 2024-01(3)
- 2023-12(1)
- 2023-10(4)
- 2023-09(3)
- 2023-08(2)
- 2023-07(1)
- 2023-06(2)
- 2023-05(2)
- 2023-04(3)
- 2023-01(1)
- 2022-12(2)
- 2022-10(2)
- 2022-09(4)
- 2022-06(1)
- 2022-05(4)
- 2022-04(1)
- 2022-01(3)
- 2021-12(1)
- 2021-11(2)
- 2021-10(3)
- 2021-07(2)
- 2021-06(1)
- 2021-05(4)
- 2021-01(1)
- 2020-12(1)
- 2020-11(2)
- 2020-09(2)
- 2020-05(1)
- 2020-03(1)
- 2020-02(1)
- 2019-12(3)
- 2019-11(7)
- 2019-09(1)
- 2019-06(2)
- 2019-05(1)
- 2019-04(3)
- 2019-03(4)
- 2019-02(5)
- 2019-01(1)
- 2018-11(4)
- 2018-09(6)
- 2018-08(5)
- 2018-05(2)
- 2018-04(2)
- 2018-02(5)
- 2018-01(2)
- 2017-12(3)
- 2017-11(1)
- 2017-09(5)
- 2017-08(2)
- 2017-07(4)
- 2017-06(2)
- 2017-05(4)
- 2017-03(1)
- 2017-01(4)
- 2016-12(3)
- 2016-10(1)
- 2016-09(1)
- 2016-08(3)
- 2016-07(6)
- 2016-06(4)
- 2016-05(1)
- 2016-04(1)
- 2016-01(1)
- 2015-12(3)
- 2015-11(3)
- 2015-10(1)
2022/10/09
「トムネコゴの『話しを聴くネコ』」
今から5年ほど前のこと。
「人の話を聴く会」に通い始めて、3回ほど経ったときのことでした。会が終わりトムネコゴを出ると、晩秋の冷えた風が公園の木々を揺らしていました。
池の周りを歩きながら駅の方面まで向かうと、七井橋通りへとつづく階段から漏れる街頭の灯りが、いつもとちがって見えたのを覚えています。なんだか、まるで自分の両目のレンズが磨かれたような感覚で、オレンジ色の灯り一つひとつが粒立って感じられました。
「なんでこんな風に」と目をしばたたかせながら、衝動にかられて、おもむろにかばんからカメラを出したことを覚えています。
その時に撮った一枚は、2017年の冬に発行した『1/f vol.5』のアルセーニ一・タルコフスキーの詩に写真を添える巻頭記事に載せました。
街頭の灯りを写しただけの地味な一枚ですが、使うときめて。
お店に断りを入れることもなく、キャプションに「ネルドリップコーヒーがおいしいお店からの帰り道」なんて勝手に書いたりもして。
「人の話を聴く会」はとてもこれでは言い尽くせず、既に回を重ねられていた後に、この集いを知った私が参加できたのも後半の数回でしたが、私にとっては毎回自然と、こうした記憶のフックになりそうなしるしを残したい、という気持ちを起こさせました。
これは、東京・吉祥寺、井の頭公園のはずれにある、落ち着いた静かな時間を過ごしたい人のための喫茶店「トムネコゴ」で、2017年10月まで定期的に開かれていた小さな催しのことです。
音楽家、ミュージシャン、パフォーマーなど。
毎回、有名無名ジャンルを問わず、さまざまな背景やなりわいを持つゲストが招かれ、店主自ら聴き手となり約2時間対話するという、名通りのシンプルな内容。
対談やディスカッションという言い方ではこぼれ落ちてしまう、やはり「聴く」という表現がいちばんしっくりくる時間。
集まった数十名の客たちは、ペンダントライトの下で向き合う2人を中心に膝をつき合わせながら、淹れたてのコーヒーを片手に耳を傾けています。
店主は話し手の目をじっと見て、率直で簡潔な質問を投げかける。ゲストもそれに応じて滔々と語り始めたり、時に沈黙が続いたり、またはっとひらめいたり。時々、聴衆から沸き起こる笑いも飲みこんで、対話は思ってもみなかった方向へと深まっていく。
もう少しこの先を聴きたいな、そんなたけなわに、いつも決まって店の奥から小さく流れてくるのは、ビリー・ホリデイが歌う「When You’re Smiling」。
あの軽快なメロディーは、そろそろお開きの合図だったのだろうか。そして店主は「では、帰ってください」とさらっと締める。聴衆はわいわいがやがやと散会。
.
今回そんな「人の話を聴く会」に、私も紙の上で話し手として参加させてもらうという、貴重な機会がありました。
エフイチでも楽しみにされている方が多いと思いますが、小誌にショートストーリーやエッセイを寄せてくださっている、トムネコゴ店主・平良巨さんが10月に発行されたばかりの新刊『話しを聴くネコ』(とむねこ堂)に、この時のインタビューが掲載されています。
新作は「人の話を聴く会」を紙の上でやってみる試みだったといいます。
話し手の言い惑いやちょっとした間など、その場だけあらわれる対話の機微も記された、店の空気やあの集いが、そのまま紙になったようなエッセイ&インタビュー集。
そこには、聴き手と話し手のあいだを縫うようにしてまどろむ(きっと、話を聴いているのか…)ネコたちの存在があります。ページを閉じたわたしは、やっぱり目をしばたたかせているのでした。
なぜここまで人の話を聴くことに真剣なのだろうと思うほど、聴いているときの店主の目には、かつての会で感じた、あの凄みがありました。
このページをめくって、やっとその理由となるものをほんの少し、垣間見ることができたような気がします。でもそう思った瞬間、どこからともなく、やっぱりあのビリー・ホリデイの歌声が聞こえてくるのです。
.
ぜひ、お手にとってみてください。
トムネコゴでの販売、また地方発送も承っているそうです。
(下記アドレスに希望メールを送れば、手順等を手配してくださるとのこと)
[アドレス]
気になる方はブログで check.
[トムネコゴさんのブログ]
http://thomnecogo.seesaa.net/article/492012791.html
Book detail―――――――
『話しを聴くネコ』平良 巨[著]
(とむねこ堂:発行)
――――――――――――