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2022/10/09

「トムネコゴの『話しを聴くネコ』」

「トムネコゴの『話しを聴くネコ』」

 

 

今から5年ほど前のこと。

 

「人の話を聴く会」に通い始めて、3回ほど経ったときのことでした。会が終わりトムネコゴを出ると、晩秋の冷えた風が公園の木々を揺らしていました。

 

池の周りを歩きながら駅の方面まで向かうと、七井橋通りへとつづく階段から漏れる街頭の灯りが、いつもとちがって見えたのを覚えています。なんだか、まるで自分の両目のレンズが磨かれたような感覚で、オレンジ色の灯り一つひとつが粒立って感じられました。

 

「なんでこんな風に」と目をしばたたかせながら、衝動にかられて、おもむろにかばんからカメラを出したことを覚えています。

 

その時に撮った一枚は、2017年の冬に発行した『1/f  vol.5』のアルセーニ一・タルコフスキーの詩に写真を添える巻頭記事に載せました。

 

街頭の灯りを写しただけの地味な一枚ですが、使うときめて。

 

お店に断りを入れることもなく、キャプションに「ネルドリップコーヒーがおいしいお店からの帰り道」なんて勝手に書いたりもして。

 

「人の話を聴く会」はとてもこれでは言い尽くせず、既に回を重ねられていた後に、この集いを知った私が参加できたのも後半の数回でしたが、私にとっては毎回自然と、こうした記憶のフックになりそうなしるしを残したい、という気持ちを起こさせました。

 

 

 

 

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これは、東京・吉祥寺、井の頭公園のはずれにある、落ち着いた静かな時間を過ごしたい人のための喫茶店「トムネコゴ」で、2017年10月まで定期的に開かれていた小さな催しのことです。

 

音楽家、ミュージシャン、パフォーマーなど。

 

毎回、有名無名ジャンルを問わず、さまざまな背景やなりわいを持つゲストが招かれ、店主自ら聴き手となり約2時間対話するという、名通りのシンプルな内容。

 

対談やディスカッションという言い方ではこぼれ落ちてしまう、やはり「聴く」という表現がいちばんしっくりくる時間。

 

集まった数十名の客たちは、ペンダントライトの下で向き合う2人を中心に膝をつき合わせながら、淹れたてのコーヒーを片手に耳を傾けています。

 

 

 

店主は話し手の目をじっと見て、率直で簡潔な質問を投げかける。ゲストもそれに応じて滔々と語り始めたり、時に沈黙が続いたり、またはっとひらめいたり。時々、聴衆から沸き起こる笑いも飲みこんで、対話は思ってもみなかった方向へと深まっていく。

 

もう少しこの先を聴きたいな、そんなたけなわに、いつも決まって店の奥から小さく流れてくるのは、ビリー・ホリデイが歌う「When You’re Smiling」。

 

あの軽快なメロディーは、そろそろお開きの合図だったのだろうか。そして店主は「では、帰ってください」とさらっと締める。聴衆はわいわいがやがやと散会。

 

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今回そんな「人の話を聴く会」に、私も紙の上で話し手として参加させてもらうという、貴重な機会がありました。

 

エフイチでも楽しみにされている方が多いと思いますが、小誌にショートストーリーやエッセイを寄せてくださっている、トムネコゴ店主・平良巨さんが10月に発行されたばかりの新刊『話しを聴くネコ』(とむねこ堂)に、この時のインタビューが掲載されています。

 

 

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新作は「人の話を聴く会」を紙の上でやってみる試みだったといいます。

 

話し手の言い惑いやちょっとした間など、その場だけあらわれる対話の機微も記された、店の空気やあの集いが、そのまま紙になったようなエッセイ&インタビュー集。

 

そこには、聴き手と話し手のあいだを縫うようにしてまどろむ(きっと、話を聴いているのか…)ネコたちの存在があります。ページを閉じたわたしは、やっぱり目をしばたたかせているのでした。

 

なぜここまで人の話を聴くことに真剣なのだろうと思うほど、聴いているときの店主の目には、かつての会で感じた、あの凄みがありました。

 

このページをめくって、やっとその理由となるものをほんの少し、垣間見ることができたような気がします。でもそう思った瞬間、どこからともなく、やっぱりあのビリー・ホリデイの歌声が聞こえてくるのです。

 

  

 

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ぜひ、お手にとってみてください。

 

トムネコゴでの販売、また地方発送も承っているそうです。

(下記アドレスに希望メールを送れば、手順等を手配してくださるとのこと)

 

[アドレス]

thomnecogo@gmail.com

 

気になる方はブログで check.

 

[トムネコゴさんのブログ]

http://thomnecogo.seesaa.net/article/492012791.html

  

Book detail―――――――

『話しを聴くネコ』平良 巨[著]

(とむねこ堂:発行)

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